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インターネット羊小屋

【R18】エッチな二次創作スケベ小説の書き方 覚書【BLD】

 

⚠️ここではR18BL夢小説の表現を引用しているので18歳以下の人は読まないでね!⚠️

1. はじめに

「推しのエッチな姿が見てえ~~~でもスケベを書く体力がねえ~~~」と泣き言を言い続けてはや数年。それでも自分が読みたいスケベは自分で生み出すしかないので、練習を始めた。そうやってここ数か月のあいだ(筆の遅い自分にしては)コンスタントに小説を書き続けていたら「スケベ小説ってどうやって書いてる?」という話になったので、自分なりの傾向と対策をメモしてみる。

これは別に「これを読めばみんな簡単にR18二次創作小説が書ける!」という類のものではないし(そんなものはない)、今でも私は「ハァ?人間の身体の可動域超えとるが!?」とか「誰やこんな脱がせにくい服着せたん!!私か!!!」と苦しみ暴れながら書いている。そもそも創作の思考と出力方法は人によって全く別物なので、私がいいと思った方法が他の人にも有用であるとは限らないし……。

だからこれは創作論というより「私はこういう感じで書いているよ」という個人的な備忘録です。オタク向けのエッチな小説の書きかたに関してはすでに

のようなまとめや講座がたくさんあるので、自分にあいそうなハウツーを探してみるといいかも!

ちなみに私は「頭の中の映像を文字おこしするタイプ」の字書きで、メインは夢小説を書いている。最近は「プロットを立てられないので話の終着点がわからない」のと「気を抜くと文章が冗長になりテンポが悪くなる」のが悩みで、三ヶ月ほど前からとりあえず書き続ける練習をはじめてみた感じ。

前提として、この記事は「巧いエロ小説を書きたい」人向けではなく、「推しCPのエロが読みたいが求めているものがない」人や「手あたり次第読み尽くしてしまいもう自分で書くしかない」人の最初の一歩を応援するために書いたものです。

 

⚠️ここではR18BL夢小説の表現を引用しているので18歳以下の人は読まないでね!⚠️

2. アイデアとリビドー:絶対に書きたいテーマ・シチュエーションを決める

普通の小説と同じように5W1H:Who(だれが)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)を含む物語の起承転結を設定しておくと楽。というか、いわゆる「ネタだし」の部分なので、ここでできるだけ具体的に決めておくと未来の自分に感謝される

しかし必ずしも全員がきっちりアイデアを固めてから書きはじめられるわけではない。少なくとも私には無理だ。いつでも見切り発車なのでプロットなんて書けないし、話が勝手に進んでいく。

ここで大切なのは「これだけは絶対に書きたい」と思うものがあること。「この台詞を言わせたい」とか「このシチュエーションが書きたい」とか、着想そのものはなんでもいい。ぼんやりとでもアイデアがあれば、とにかくそれを書き起こしてみることが大切だ。

ここからは、自分の書いた女装攻めR18BL夢小説を例として解体していく。

www.pixiv.net
この作品を書きはじめる前に私が書きたいなと思っていたのは:

  • 女装攻め
  • 夢主はレザーを扱うデザイナーで犬の獣人(雑種)
  • 人間と獣人の身体の差異
  • 暴力ではなくコミュニケーションとしての支配/被支配
  • 普段加虐的な性格で描写されているキャラが実は被虐的
  • 過去の支配関係が目に見える形で残っている=淫紋、ピアス

の五点だった。

今回は「女装(攻め)という属性」と「支配/被支配の関係性」が出発点となる。「コミュニケーションとしての支配/被支配」を書くなら、ある程度の関係性ができあがった状態でスタートさせたほうがいいなと思い、パートナーとして同棲している設定にする。

そこまで決まったら、次はキャラクター同士の関係性を掘り下げていく……のだけれど、これは夢小説だ。原作キャラ同士のCP小説とは違い、夢小説を書く場合には夢主(夢主人公)の設定を考える必要がある。*1

そして今回は「普段加虐的な性格で描写されているキャラクターが実は被虐的」であり「過去に他人に支配される状況にあった」ことを描くためにある程度個性を持たせた夢主をデザインしていく。

  • お相手キャラがファッション好き+常に乗馬鞭的なものを持っている+元ネタが毛皮マニアのデザイナー→レザーを扱うデザイナーにしよう
  • キャラクターによる「子犬」という呼びかけや元ネタ的に犬の獣人がいい+特定の犬種ではなく雑種(そこまで掘り下げるかはわからんが、生まれ育った生活水準に差があるイメージ)
  • 普段は「僕は可愛い飼い犬です!」みたいな態度をとっているが、普通にしっかり自我があるし手を噛むタイプ
  • 自分が可愛いことを理解し、好きで女装をしている成人男性

最後の二つは完全に個人的な好みによるものだが、こんな感じ。先に述べたように、「原作では描かれていないキャラクターの別の側面・属性を描く」ために最適化したデザインの夢主を作っていく。

ちなみに原作キャラクター同士のCP小説を書くときにはこの作業は必要ないので、そのまますぐにキャラクター同士の関係性を構築し掘り下げる作業に入る。

とにかくこのアイデアを詰めて自分の欲望を具体的にしていく作業が一番楽しいし、ここで細かくこだわりを決めておくと後々めっちゃ助かる。

 

3. 言語化と書き出し:開始五秒で濡れ場が始まらない

3-1. 物語の視点と人称

物語が動き出す前に決めておくべきなのが、小説の「視点」「人称」である。BLの場合、受けの視点なのか攻めの視点なのか、そのどちらでもない神の視点なのか。私は夢主の一人称一視点が書きやすいので、なにを書いても大体それになってしまう。

人称=語り手を指す
視点=カメラの位置を指す
*2

ざっくりした言い方をすれば、一人称は主人公(この場合は夢主)の心理描写が細かくできるので、キャラクターの魅力や相手への想いを書きやすい。しかし視点が語り手に固定されがちなぶん客観的な描写が難しいし、語り手の能力や語彙力に依存した表現をすることになる。*3

ジャンルによって人称の向き不向きはあるが、こればかりは個人の好みなので同じ設定の短い文章でひと通り試してみるといいと思う。途中まで書きはじめた小説の人称や視点を変えて全て書き直すのはかなりの苦行なので、先に自分に合ったスタイルを見つけておこう。CP小説は三人称一元視点と神視点が多いイメージがあるけどどうなんだろ。

人称に関してはこのnote「人称と視点で小説の書き方は広がる」やwebサイト「小説を書くとき 三人称一視点を勧める理由」などが参考になるかも。

3-2. 文章の構成と書き進め方

作家は二つのカテゴリーに大別できます。アウトライン派と非アウトライン派、あるいは執筆前にプロットを作る「プロッター」と、作らない「PANTSER(パンツァー)」。*4

Twitterでも度々話題になる、小説の「書き方」。これも本当に好き好きというか、「プロットをきっちり決めないと書けない」人もいれば「アウトラインを決めてしまうとそれに縛られてしまって書けない」人もいる。

私はプロットを作るのが苦手でいつも見切り発車で書き始めるので、長編になればなるほど着地点が迷子になる。そんな私が最近アウトライン作りの練習がてらよくやっているのが、ツイートを小説に変身させていく方法。これは主にSS(一万字以下の短いお話)を書くときによくやっていて、

こんな感じでツイートに肉付けして(あるいは複数のツイートを繋げて)小説にしていく戦法。この方法だとツイートが簡易プロットになっているのでオチを見失いにくいし、小説を書いたことがない人でも気軽に始めやすい気がする。

スケベな小説を書くのが初めての場合は、最初にプレイ内容をリストアップしてから書き始めるのも手だと思う。流れを決めてしまえば細かい表現に悩み始めても迷子にならないし、Twitterでネタにされている「攻めがパンツを二枚履いていた」事件も防止できる。

3-3. 書き出し

物語の主軸となる人物が揃ったら、関係性の構築を開始する。この時点で「パートナーとして同棲している」ことは決まっていたので、じゃあ舞台は二人の自宅にしようかと思いつく。
お互い仕事をしている二人だが、「尻尾を振って飼い主を出迎えるわんこ」のイメージを持たせたかったので夢主が出迎えるところから話を始めることにした。ドアが開いて物語がスタートするのは構造的にもわかりやすい、という理由もある。

 丁寧にオイルを塗りこんだレザーソールがコツコツと石畳を鳴らす音が聞こえ、ボクの耳がぴくぴく動く。同時にふわりと鼻腔をくすぐる慣れ親しんだパルファムの香り。仕事のときにはごく控えめにつけられているそれも、ボクの優秀な鼻ならすぐにわかる。
 段々と近づいてくる足音に、ボクは玄関前の大きな鏡で全身をチェックするため慌てて立ち上がった。ハーフアップにしたアッシュグレーの髪に、この間買ったばかりの白いニットのワンピース。毎日欠かさずボディクリームを塗っている太もものさわり心地は抜群だし、自慢の尻尾は今日もふさふさだ!そうしているうちに、玄関のドアの前でぴたりと立ち止まる足音。指摘したことはないが、彼が毎日こうやって家に入る前に身だしなみをチェックしていることも知っている。ボクは優秀な番犬なので、ご主人のことなら何でも知っているのだ。

この場面を書くときに気をつけていたのは

  • 犬の獣人である夢主の視点で物語を進行していく以上「嗅覚」と「聴覚」の情報を最優先で、詳しく描写する
  • スタート時点でお互いがお互いを思いやっているような描写(お互い顔をあわせるまえに示しあわせたように身だしなみをチェックする)をいれる
  • キャラクターの設定上、ファッションにまつわる表現はできるだけ具体的にする

あたりの部分。書き出しとしてのインパクトはないが、不自然な説明口調を避けつつ「物語の主軸である二人の関係性」の情報を提示できたかなとは思う。

なぜこの本は、ストーリーの書き出しだけを説明しているのでしょうか。書き出しが果たすべき役割をうまくこなしていなければ、作品に目を通すエージェントや編集者は、ストーリーの残りの部分を読まないというのは、純然たる真実です。それなのに、書き出しに関する本がたったの一冊しかないほうが、よっぽど不思議です。書き出しは、あなたが書くストーリーのおそらく最も重要な部分です。作品を出版したいのであれば、その重要な部分を正しく理解する必要があります。*5

「小説の書き出しが魅力的でないと読まれない」というのは本当で、「いかに書き出しで物語の面白さを提示するか」は「最後まで小説を読んでもらえるか」ということに直結する。とはいえ「じゃあ記念すべき一文目は……」と悩み始めるとその時点で手が止まり、書けなくなってしまうだろう。

正直なところ、「とりあえずエッチな小説を書いてみたい!」という場合はいきなりメインの「濡れ場」から書き始めてしまえばいいと思う。そりゃまあプロの料理人になりたいなら前菜も作れないと困るかもしれないが、個人的に肉が食いたいときは肉を焼くところからスタートすればいい。

どうしても書き出しに悩む人は書き出しを集めたwebサイト「本の書き出し」や、書き出しだけで成立する小説を集めた「書き出し小説大賞」などを見てみると面白いかも。アナログだけど、印象的な小説の書き出しをノートに蒐集してみるのもいい。

ここで、推し作家である一穂ミチさんのBL小説の書き出しをいくつか紹介しておきたい。

①「ラブ キス(2)

 苑には、人生でたったの四日間だけ恋人がいた。つき合い自体は二十年近く、でも恋人同士だったのは正真正銘その四日。四日で苑は四季を体験した。芽生えの春、盛りの夏、翳りの秋、そして眠りの冬だ。この先、あんな日々を味わうことは一生ないだろうという安堵と痛みは今も胸に残っている。短い幸福が幻じゃなかったという証拠として。

②「ハートの問題

 ぷつっと、細い糸が切れるように「あ、無理」と思った。突然であっけなかった。ちくちく蓄えられた熱が噴火するようでも、ぴとぴと溜まった水があふれ出すようでもなく、ただもうそのとき、何の前触れもなく「無理」と思ったのだ。無理無理無理無理、もう絶対無理。

③「街の灯ひとつ

 熱を放つ光が好きじゃない。

 触れることもできないそれが肌に当たるとき、何かとても余分なものを押し付けられたような気分でうっと息を詰めそうになる。もちろん、熱が生物に不可欠な要素だと知っている。けれど日光よりは月光が、花火より蛍火が好きだった。

①はもうシンプルに言葉運びが美しくない?この数行だけで切なさに心臓をギュッとつかまれるし、「過去の話を振り返るのかな?」「これからその相手と再会するのかな?」と読み進めたくなる。

続く②は一行目から「動き」があり、開幕からなにか事件が起こっているのがわかるのがすごい。この「無理」の説明の例え方で、語り手である主人公の性格が垣間見えるのも面白い。

そして③の「熱を放つ光が好きじゃない」という書き出し。この言葉が本当に好きで、さらにこの「熱と光」が物語のなかで繰り返し出てくるテーマになっているのもいい。

という感じで、グッとくる書き出しを集めてみると楽しいよ!そして自分が納得できる書き出しが浮かばないときには、とりあえず濡れ場からスタートさせてみよう!

ここまで読んでくれた人は、このツイートの絶望感をより強く感じてくれるのではないかと思う。そう、R18小説だと言っているのに一向に濡れ場が始まらないのである!

それどころか一ページ丸々使って関係性を描写してしまった……。しかしこの「日常」を先に出しておくことで後々濡れ場のエロさがより際立つのだ!と信じて、スケベシーンの話に移ろう。

 

4. 濡れ場を書く

4-1. スケベの方向性と雰囲気選び

実際に濡れ場を書き始める前に決めておきたいのが、「スケベの方向性」と「文章の雰囲気」選びだ。同じように「濡れ場」を含む小説でも、「官能小説」と「BL小説」と「ティーンズラブ」では雰囲気も方向性も語彙も全然違ってくる。

R18向けの一次創作小説投稿サイトでも、いわゆる「女性向け」作品の多いムーンライトノベルズ、「男性向け」作品の多いノクターンノベルズ、そのどちらでもない「大人向け」の作品の多いミッドナイトノベルズのように分かれていると思う。BLコミックで言えば、「麗人」なのか「Qpa」なのか「ルチル」なのか……みたいな(レーベルの話)。

自分はどのタイプの小説が好きで、興奮するのか。どんな雰囲気の文章が書きやすく、それは「書きたいもの」と一致しているのか。そのキャラクターや原作にはどんな方向性のスケベが合うのか。このへんのことを擦り合わせながら、気が済むまでインプットしてみるのが結局一番早い。エロに限らず、語彙力だけはひたすら読んで身につけるしかないのだ。

4-2. スケベな語彙力と喘ぎ声

スケベな小説をスケベな小説たらしめる一番の要素はなにか。それは間違いなく書き手の語彙力と言葉選びだ。

例えば、私の小説のこの部分。

しかし確かにこれから起こることへの期待に満ちたその目に、ボクはデイヴィスの白い首元に首輪のように垂れ下がったままだった赤いネクタイをつかむとそのまま乱暴に口づけた
 ムードも愛の囁きもない、噛みつくようなキス柔らかな唇を割り入って歯列をなぞるようにして口内を犯せば、それに応えるかのようにデイヴィスが舌を絡めてくる。薄暗い部屋のなか、ボクたち二人の荒い呼吸音だけが響く。
 角度を変え、何度も深く口づけながら、ベルトを外してトラウザーズのジッパーを下げていく。するとデイヴィスがボクの首に腕を回して縋りつくように抱き着いてきたので、そのまま下着も一緒に脱がせてしまうことにした。

身も蓋もない言い方をすれば、この場面で描いているのは「キスをしながら服を脱がせた」というシンプルな二つの動作だけ。それを可能な限り噛み砕き、「スケベ語彙」を使って再構築していく。

スケベ語彙は、前述した「スケベの方向性と雰囲気」や「世界観とキャラクター性」にあわせて選ぶ必要がある。

例えば男性器一つをとっても、ペニスや陰茎、魔羅、肉棒、竿、剛直、杭、硬くなったモノ、熱を持ったそれ……のように無数の呼び方が存在する。あまりにその小説の雰囲気や世界観に馴染まない単語を選んで読み手が違和感を抱けば、それはノイズになってしまい興奮を阻害する。それに硬派で純情なキャラの発する「ちんちん」と手練れのヤリチンキャラの発する「ちんちん」では言葉の持つ意味が変わってくるだろう。

噛みつくようなキスをし、歯列をなぞり、肩を震わせ、カサついた唇を舐め、生理的な涙を流す。何本か小説を書いてみるとこういう自分の「手癖」の表現が分かってくるのも面白い。

もう一つセックス描写に欠かすことができないのが、喘ぎ声。これも「ん♡きもちぃ゛♡」みたいなハート喘ぎや「ん゛おッッッ」みたいなんほぉ系など人によって好みがわかれる部分だと思う。人にはひとの喘ぎ声!

「身体、痛くない?」
「……ん、ハァ、ッ、ああッ」
「コラ。それは傷がついちゃうからダメだって」

「デイヴ、気持ちいい?」
「あ、っぐ、ンア、や、」

私は喘ぎ声そのものよりも「気持ちよさを我慢しようとしているときに漏れ出る声」とか「快楽に足の爪先にキュッと力がこもる描写」が好きなムッツリなので大体上に抜き出したみたいな感じ。「……」で間を、「、」で呼吸を表現すると生々しくなると信じている。

あとは適度に平仮名とカタカナを混ぜたり、音を濁らせたりしてみるのもいい。どうしても喘ぎ声を考えるのが苦手な人はスーパー喘ぎ声メーカーなんてものも存在しているから遊んでみるといいかも。

あとはエロ擬音やスケベの流れには流行りがあるので定期的にSUPER SUKEBE BOOKS(商業出版されているエッチな本)を読んで学んだ方がいいんだろうなとは思う。同時に「擬音が古い!?知らん!私はこれが好きだしエッチだと思ってるんだよ!」という強い気持ちも必要。エロのこだわりは十人十色。信じられるのは己だけ!!

4-3. 会話と五感描写と「エロマトぺ」

私は地の文が多いオタクだ。それは私が一人称小説しか書けない呪いにかかっているからなのだが、普段小説を書かない人から「地の文が多い小説は大変そう」と言われることがある。

それならまず、会話から書けばいい。「限界腐女子による小説の書き方講座|さくた|note」にも書かれているように、とりあえず登場人物に会話をさせてしまえば「なんか小説っぽいもの」は簡単にできあがるからだ。

私がこの小説の濡れ場を書きはじめる前に、絶対にいれるぞと決めていたやりとりは三つ。


「……躾のなっていない足だ」
「躾けてくれるの?」
「次からはもっとスマートな誘い文句を考えておくんだな」

「あのクルーウェル先生がこんなやらしいジュエリーつけてるなんて、みんなにバレたら大変だね」

「お願い、しま、す」
「……Very well, my love(よくできました、可愛い人)」

それぞれ

 ①は濡れ場への導入としての役割+夢主が支配権を握る予兆 

 ②は羞恥心を煽る発言をしても許される関係性の描写+夢主の独占欲の現れ 

 ③は支配/被支配の成立を表すもの+クライマックスへの導入

というイメージで選んだこれらのやりとりを、濡れ場に混ぜ込んでいく……のだが、最初は多くの人が「そもそも濡れ場ってなにをどう書けばいいのだろう?」という疑問にぶち当たるだろう。

 

ぬれ-ば【×濡れ場】

  1. 歌舞伎で、男女の情事の場面。また、その演出。初期歌舞伎の濡れ事が発展したもの。濡れ幕。
  2. 情事の場面。ラブシーン。

デジタル大辞泉

 

私が濡れ場を書くとき、その流れを大きく三段階に分けて考えることが多い。

それは 

 ①前戯
 ②挿入もしくはそれに準ずる行為
 ③フィニッシュおよび事後の描写

である。

①前戯

私は直接身体に触れることだけではなく、「よっしゃヤるか」という雰囲気作りや登場人物のやりとりも含めて前戯として書くようにしている。

 二人で一緒に選んだキングサイズのベッドの上に下ろされたボクは、四つん這いになってぐっと伸びをしてからその場でごろんと横になった。そのままデイヴィスがジレのボタンを一つずつ外し皴にならないようにハンガーにかける様子を眺めていると、彼は「ずいぶんと熱烈な視線だな」と喉の奥を鳴らして笑った。
「それで、やんちゃな仔犬のお望みは?」
 気怠そうに片手でネクタイを緩めながら、デイヴィスはボクの隣にその身体を横たえる。シャワーを浴びる前の身体からはたくさんの知らない匂いがして、ボクはそれを上書きするようにその胸にぐりぐりと頭を擦りつけた。

これも前戯だし、

 ボクはまるで祈りを捧げるかのように首を垂れ、うっすらと筋の入った腹部にゆっくりと舌を這わせていく。そのままわざと音を立てながらその身体に口づけを落としていけば、デイヴィスは快感を湛えるように低い声を零した。

 ムードも愛の囁きもない、噛みつくようなキス。柔らかな唇を割り入って歯列をなぞるようにして口内を犯せば、それに応えるかのようにデイヴィスが舌を絡めてくる。薄暗い部屋のなか、ボクたち二人の荒い呼吸音だけが響く

 魔法で処理をしたときに自分で少し弄ったのか、デイヴィスの後孔は最初から少し柔らかかった。目の前でひくつく可愛い穴に小瓶から直接ローションをかけると、温まった身体には少し冷たかったようでデイヴィスがびくりと身体を震わせた

さっき引用したこのへんも前戯。セックスをする前にその場の雰囲気を盛り上げる行為は全て前戯として書くことが多い。

また、直接的に触れる場合には手以外も使う様子を書くといい。唇を寄せたり舌で舐めたり、頬擦りをしたり、足の爪先で引っ掻いたり。全身を使って触れあう様子を描写するとなんかエッチになる。

②挿入もしくはそれに準ずる行為

私は「濡れ場」=「セックス」挿入だけがセックスではなく、前戯のあとに一番盛り上がる部分がセックスだと思って書いている。*6

 そんな彼の行動で、辛抱強く待とうと思っていたボクの覚悟は一瞬で崩壊した。
 ワンピースの裾をたくし上げ、後ろからかき抱いたデイヴィスの身体を一気に貫く。かなり念入りに解してはいたが、やはり苦しかったらしい。浅い呼吸を繰り返すデイヴィスの脇腹をゆっくりさすると、絡みつく肉壁がきゅっとボクを締めつけた

 ボクが腰を前後に振るたびに、粘膜同士がにちにちと擦れあう下品な音とデイヴィスの可愛い鳴き声が部屋の中に響く。ゆっくりと、しかし確実に深くまで腰をグラインドさせれば、デイヴィスの身体から力が抜けた。あまりの快感に、自力で身体を支えることすらできなくなってしまったようだ。胸の下に敷いた枕に顔を埋め、半ば叫ぶように喘ぐデイヴィス。その細い腰をつかんでひときわ奥まで腰を穿つと、パンパンに膨らんだボクの根元の瘤と彼の柔らかな尻たぶぱちゅんと音を立ててぶつかった。

これは前戯のシーンでも言えることだが、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)に関連する描写を多めに入れるとエッチ度が増す。五感に関連する描写は読み手の想像力を刺激し、感情移入を促しやすくするからだ。

例えばシーツの上で乱れた相手の姿や、二人の香水が溶けあった匂い。お互いの呼吸に交じって聴こえる雨の音に、汗ばんだ首筋に舌を這わせたときに感じる塩気。そして指先に引っかかる、硬くなった背中の傷跡。そんな五感を意識した描写を「擬音」でサポートしていく。

このとき使用する擬音は、にちにちとかぱちゅんとかたぷんズッみたいにエロ漫画で使われているオノマトペのようなエロ擬音(私はこれをエロマトぺと呼んでいる)を使うとより効果がある。これもスケベ語彙の一部だが、漫画と違い全てを読み手の想像力に委ねることになる(視覚的にエッチな文字で表現することが難しい)ので

官能小説で使われるオノマトペを集めた辞典なんかも存在するが、基本的に男性向けの表現が多い+少し古臭い感じがするので自分で「これエッチだな……」と思った表現を蒐集したほうがいいと思う。しつこいようだが、言葉は変わるし流行りもあるからだ。*7 Netflix and Chill、のように(多分これももう古い)。

エロに限らず、表現が重複して困ったときには日本語表現インフォ感情類語辞典が役に立つかも。

エロ擬音を使う際に気をつけたいのが、小説ではオノマトペのみを組み込むと逆に没入感が失われ間の抜けた濡れ場になってしまうことがあるということ。スケベさを保つためには、読み手を現実に引き戻すことなくドキドキさせ続けなくてはならないのだ。そのとき


ボクが腰を前後に振るたびに、粘膜同士がにちにちと擦れあう下品な音とデイヴィスの可愛い鳴き声が部屋の中に響く


ボクは腰を前後に振った。
にちにち。
パンパンパンパン。
粘膜同士が擦れあう下品な音と、デイヴィスの可愛い鳴き声が部屋の中に響く。

こんな感じで急にエロ擬音だけを挟みこむと、読み手に「これなんの音?」「拍手で応援してる第三者がいるんか?」と我に返る隙を与えてしまうリスクが高まる。(あんまりうまいサンプルが用意できなかったけど伝わってほしい)

③フィニッシュおよび事後の描写

一発ヤり終わったらそこで満足して暗転エンドさせちゃう?私もやる……でもそこでもうひと踏ん張りしてピロートークまで書けると最後までエロたっぷり!感が出る気がする。

 抑えていた欲望を開放するのと同時に震える身体の最奥まで腰を打ち込めば、デイヴィスは悲鳴のような声をあげながらびくびくと身体を震わせた。もう縛っているものはなにもないのに、未だ半勃ちの状態のそこからは精子カウパーが混ざり合ったものがとろとろと流れ続けている。それは終わりのない射精のように、果てのない快楽なのだろう。強すぎる快感から逃げるように、デイヴィスの背中が何度も大きくしなった

 部屋の中に響く二人分の荒い呼吸音デイヴィスの匂いがする。彼のお気に入りのパルファムではなく、彼だけが纏う生き物としての匂い。その香りを胸いっぱいに吸い込んで、後ろから抱き締めたままその背中に頬ずりをする。そのまま目の前の白いうなじを見つめていたらどうにも我慢ができなくなって、ボクはかぷりとデイヴィスの首に噛みついた。こんな感じでフィニッシュを迎えた描写をしたあとに そうしてそっと彼の背中に腕を回し、温かな素肌同士が触れ合う感触にそっと目を閉じる。ベッドはビショビショだし、二人ともいろんな体液で全身ドロドロだけど、お互いの心音と呼吸の音だけが響くその空間はとても穏やかだ。
「あのね、デイヴ、大好きだよ」
「……それもわかっている」
 ボクも生徒としてデイヴィス・クルーウェルの授業を受けてみたいと言ったけど、前言撤回しよう。生徒じゃなくてよかった。だってこんなに可愛い人を独り占めできないなんて、それこそ悲劇じゃないか!

こんな風にあえて会話をさせてから終わる。コミュニケーションとしてのセックスを描くときは特に最後まで会話をさせたいなと思っている。ここでは最初に書いた

毎日学生たちの話を聞いていると、ボクも生徒として彼の授業を受けてみたいなあなんて思ってしまう。教員としての彼もきっとセクシーですごく格好いいに違いない。

という夢主の心情を振り返りつつ「自分のものだ」と主張させてから終わらせた。伏線の回収というほどでもないが、これでここまでの流れをざっと思い出しやすくなるというか、はじまりから終わりまでの流れを反芻する起点になるかなと思って。知らんけど。

 

5. おわりに

 

書く練習と一緒にインプットの幅も増やしてみた(ムーンライトノベルズやノクターンノベルズから官能小説、商業BL漫画からAV、催眠エロ同人音源まで様々)けど、結局なにをスケベと思うかは個人の好みに依存するなという感じ。書けば書くほど自分の「サビ」が見えてくる。最近は♡喘ぎを書いてみたいなって思ってるよ。

ちなみに最近読んだ商業BL小説で面白かったものをいくつかご紹介:

 

どうやって書いてる?の答えになっているかはわからないけど、こんな感じで書いてます……。答えになってないわとかなんかあればこちらへ。

 

odaibako.net

*1:夢小説を書くときに必ず夢主の設定を練る必要があるわけではないが、今回はある程度個性のある夢主にしたかったのである程度の時間を割いた

*2:

人称と視点で小説の書き方は広がる|額賀 澪 NUKAGA Mio|note

*3:読者が混乱してしまうので、一人称小説内で語り手の視点が変わることは避けられがちだ。視点が変わる小説だと、二人称視点だけど淵の王とか面白いよね。

*4:K. M. ワイランド『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』より。試し読み:http://www.kaminotane.com/2018/12/10/4212/

*5:レス=エジャートン「「書き出し」で釣り上げろ 1ページ目から読者の心を掴み、決して話さない小説の書き方」試し読み:http://www.kaminotane.com/2021/11/26/18155/

*6:濡れ場に必ずセックス描写が必要かといえばそんなこともないのだが、今回は割愛する

*7:一昔前は男性向け=直接的な表現が多くとにかくエッチ、女性向け=婉曲的、もしくは想像の余地を残しストーリーも重視、という感じに分かれていたが、最近は結構入り乱れているよねという話。