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インターネット羊小屋

人を好きになるということ / ゆいつ「構いたくなる背中」

 

構いたくなる背中 (gateauコミックス)

構いたくなる背中 (gateauコミックス)

 

:長谷川 由紀(はせがわ ゆき)// 表紙左黒髪 //ノンケ・お節介・誠実

:佐倉 清三(さくら せいぞう)// 表紙右茶髪 // ゲイ・バリネコ・ビッチ

あらすじ:

数ヶ月前に恋人に浮気され破局したゲイの佐倉は 
人肌が恋しく夜な夜な男を漁っている。 
ある日、見知らぬ男に邪魔をされセックスのチャンスを逃した佐倉は次の日、 
見知らぬ男あらため長谷川と会社で再会を果たす。 
男を漁っていたことを口止めする佐倉に対し 
長谷川は寂しいなら一緒に住まないかと言いだして―― 

その他の収録作品:電子限定描きおろし漫画6P

作品傾向:ほのぼの / シリアス / ノンケ攻 / ビッチ受 / 両片思い / スーツ / タバコ / 元彼

 

好きだの好かれただの、疲れるだけだし*1

数か月前恋人に浮気され破局。特定の相手を作るのは面倒だが人肌は恋しいので、毎日仕事終わりにマッチングアプリでセックス相手を探す日々。そんな佐倉がいつものようにひっかけた男と路地裏でおっぱじめようとしていたところ、佐倉が襲われていると勘違いした長谷川が助けにはいってきたのが二人の出会い。

この時点でわかるんですが、二人ともめちゃくちゃ真面目で可愛い。自分の容姿が魅力的であることを理解し、それを上手く使って男漁りをする佐倉と善意100%下心0%で声をかけてくる真面目でお節介な長谷川。最初は「話し相手なんて」と思っていたのにゆっくりと長谷川の実直な人柄に絆されていくのがいい。

「アンタみたいなのが相手してくれんなら、ああいうのやめてもいいかもな」*2と笑うシーンで浮かべる笑顔がめちゃくちゃ寂しそうで心臓握り潰された……。

セックスなしの同居生活を始めてからの何気ないやりとりとか、佐倉が面倒だからと切り捨ててきた心の空白がゆっくりと埋まっていく感じが最高。

多弁な佐倉とは対照的に、口数の少ない長谷川の感情描写が基本的に顔というか目に浮かんだ表情だけでされているのもすごい。佐倉と長谷川の身体の描き分けもそうなんだけど、佐倉の長い睫毛とか長谷川の唇がキュッとなってるのとか、もう絵がめちゃくちゃ好みで最高。泣き顔のシーンとかすごくない?額縁に入れて飾りたいレベルで美しい。

おかげでわかったから*3

長谷川はわりと不器用だけどとにかく素直で真面目で、その実直さに佐倉は救われるし乱されていく。「いつも相手の顔色を伺って」*4と自身を振り返っていたように、人の心の動きに敏感な佐倉は、ほとんど表情を変えることのない長谷川がなにを考えているかもわかるようになってくるし、相手に嘘がないこともわかる。出会いは最悪で、一見正反対の二人だけど、とてもいい関係性を築きはじめる。

そこから佐倉を捨てた元彼が会社に現れたり、だんだんとお互いに向ける感情が変わってきていることに戸惑ったり。二人の心が揺れる描写が丁寧で最高……。

ちなみにスケベ描写はメインではないけどわりと多めで、汁だく系。スキンの有無に関する描写と、佐倉のアナニーシーンもあります。

作者のゆいつさんをはじめて知ったのが「バカな犬ほど愛おしい」で、次に読んだのが「REVERSE」だったのでまたアウトロー系かな?と思いながら読み始めたのですが、読了後は心が温かくなってほうっと溜め息をついてしまった。ゆいつさんがコメントに「優しいものが描きたくて」*5と書かれているように、不器用な二人の人間の人生がすれ違い、一緒に歩んでいくようになる様子をゆっくり見守ることができる素敵な作品でした。オススメ!

 

 

 

 

 

 

*1:ゆいつ, 構いたくなる背中, 一迅社, 電子版, P. 17

*2:ゆいつ, P.29

*3:ゆいつ, P. 129

*4:ゆいつ, P. 81

*5:カバー折り返し